毎年恒例の家族旅行、昨年はリルと一緒に行くには無理があると、リルと私は留守居役だった。
今年は父の「リルも一緒に」の言葉で、河口湖に泊まることにした。
前日の夜に逆走台風12号はかすめるようにして西に流れたが、被害状況や道路状況によっては当日キャンセルもやむなしと夜中まで台風情報を見ていた。(一応、雨男と言われているので)
29日、暴風雨の結果と天気予報を見ながら遅めの出発。少なくとも横浜は薄曇りだった。
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 足柄PAのドッグラン

通常の台風一過とは異なり、ぐずぐずと曇ったり、急に土砂降りになったりで、休憩もままならない。
リルがいなければ、どうでもいい博物館や美術館などでゆっくり雨宿りもできただろうが、そんな身勝手は私が許さない。
山中湖ではすごい大雨になる。
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 こりゃだめだ。

この辺まで登ってくると、雨が降っている分かなり涼しい。気温22℃の表示。
丁度お昼時だったので、ほうとうの店に入る。
甲州ほうとうは分厚いひもかわで、野菜などと鍋で煮込む味噌味の田舎料理。稲作に不適な山間にあっては、古くから粉食文化が発達したが、とりわけ甲州では養蚕の裏作として小麦や蕎麦、大豆や小豆が作られた。
本来、囲炉裏に大鍋をかけ、野菜やキノコの味噌仕立てにほうとうを入れこみ、家族全員で食すもの。
せっかく家族で出かけたんだから、そういうのを食べたいけれど、今では当たり前のようにお一人様一鍋。当然、出てくるまでに時間がかかる。こういう場合、いつも冷奴を頼むことにしている。
稲作が不適なところは水がおいしい。冷えておいしい水はいい豆腐を作る。入った店の寄せ豆腐は豆乳につかってさらに甘みが増していた。(って、他に書くことないよ)
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店を出ると、いつのまにか薄日が差していた。
息子に運転をさせて河口湖へ向かう途中、雲の切れ間から夏富士をしっかり拝むことができた。後にも先にも富士が見えたのはこの時だけ。車窓9時方向に見えたので、運転中の息子は一度も見ることはなかった。(食事後でみんなをクンクン嗅いでいたリルも)

河口湖は日曜ともあって、大変にぎわっていた。
船津あたりの土産物店では、アジア人観光客がいっぱい。相変わらずうるさい。人前でも大きな声で離れた相手と会話するのは中国人以外の何者でもない。これを直すには半年ぐらいかかる。尤も、隣にいる相手に必要ないでかい声で話しているのは日本人の若者だが。
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富士山、湖、涼しいの三語でインバウンドが集結するのは箱根だけじゃない。とくに河口湖は電車やバスの便がいいから、そりゃあ無国籍地帯。モラルがいまいちの国の人が多いから、河口湖のリオたる船津はむしろ汚い。湖の観光船はバスツアー客で満杯だ。逆に言えば、バスルートに入ってないところや、車でしか行けないようなところは静かで落ち着いているということになる。
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チェックイン時間までソフトクリームなどを食べ、高原の涼風に吹かれていた。
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ホテルには正直がっかりした。かつて静岳ホテルと言った湖畔の宿は、オーナーが変わって名前を変え、とんでもない三流宿になっていた。
宿泊客もほとんどバスツアーの中国人観光客。マネージャーも従業員もほとんど中国人で、日本人の仲居は一人だけしかいない。
ただでさえ老朽化してる施設なのに、基本的な気配りができていない。廊下の壁紙が剥がれそうになっていたり、部屋に入っても座卓や座椅子の用意もできてなかったり、だいたいフロントに人がいない。
屋上はドッグランになっているが、かつてあった人工芝は取り剥がされ、防水塗料を塗っただけのコンクリート面で、雨の後では滑って危険だ。そこに無造作にも私物の洗濯物が洗濯ロープを張ってかけられていた。
食事も、テーブルにこれでもかと料理が並べてあるが、刺身にもうどんにも、およそ蓋のないものにはラップがかけられていて、いちいち取らなくてはいけない。
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味の方も見た目通りで、とても美味しいとは言えない。
和食と言うよりは、いわゆる「日式」。恰好だけは和式だが、出汁がそもそもカツオや昆布じゃない。
それでいて薄味なので、さしもの中国人ツアー客も首を傾げていた。
今どきのインバウンドはリピーターも多い。日本の食文化や大衆食も馴染みが深い。質より量の感覚では納得しない。
父も母も、大半を残したが、息子でさえ残していたから是非もなし。
ノウハウや意志もないのに投機目的で買って、転売するまで実績を作っているような感じだな。
オモテナシなんて遠い言葉だ。

大浴場はというと、日本の風呂の入り方を知らない中国人が横暴なふるまい。
部屋のスリッパで浴室まで入り込み、そのままシャワーを浴びて嬌声を発している。シャワーの使い方も勝手気ままで浴槽まで飛沫が飛んでくる。熱い湯は苦手らしく、小児用の浅い浴槽に”腰湯”。勇気ある爺さんが熱い浴槽にギャーギャーわめきながら入ったかと思うと、おもむろに髪を洗い出し唾を吐き出した。5分で退散。
お前ら全員、うちの教室へ来い!
到着してすぐに誰もいない露天風呂に入っておいてよかった。


最悪な宿も滞在12時間の弾丸ツアー客がいなくなると、落ち着きを取り戻す。ここからの眺めだけは気持ちいい。
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一泊だからと呼吸器を持ってこなかったが、部屋前のボイラー室の時々点火する音や、揚水機の音でまんじりともしない朝を迎えた。うへー、なんか怠い。
でも、とにかくきれいに晴れ上がった。(富士だけは雲に覆われていた)
せっかくの家族旅行だが、不快な思いをしに行った感じで、なんだかみんなに申し訳なく、この晴天の涼やかな高原の助力で挽回したかったが、チェックアウト後に息子が脱藩。
あれだけ念押ししたのに、午後から外せない授業があると言い出したのが5日前。
河口湖駅から10時10分の高速バスに乗って新宿へでることになった。
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 やだよ~

その脱走者を河口湖駅まで見送る。
それにしても、河口湖駅の雑踏はすごい。雑踏というより喧噪。八割がた外国人。
かつて啄木が、
「ふるさとの訛り懐かし 停車場の雑踏に そを聴きに行く」 
と詠んだが、この混沌さはなんとする。聞きたくもない。
日本を訪れるインバウンドの大半は東アジアの人たちで、そのまた大半が中国語(北京語)。
で、なぜか皆声が大きい。日ごろ街に出ない両親も、やたらと耳のいいリルもびっくり。というか唖然。
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駅前駐車場では、富士登山をするのであろう欧米系の男女数人がパンツ一枚になってお着換え中。
ご当地版ハローキティーのお菓子に群がっているのは韓国系。機関車トーマスのプリント列車の写真を撮っているのは日本人のオタク族。
つい5年前までは小さな田舎の駅だったのに、ひと頃の清里駅並み。あんまり騒々しいのでバスに乗る囚人を見送ることなく脱出。

ここからは西遊記。西へ西へと喧噪を逃れて気まま旅。
鳴沢村まで来ると車の数も減り、豊かな緑があふれる静寂さ。
目につくものに立ち停まり、そば粉たっぷりのおやきを食べたり、リルの散歩、地元物産の物色。
南下して朝霧高原の牧場で牛乳飲んだりしながら白糸の滝へ。
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 音止めの滝

富士の湧き水からなる滝の近くは実に涼しい。
車いすを押しながら歩く家内も、リルを引きながらの私も救われる思い。
土産物屋が立ち並ぶ順路を見て歩く母も楽しそうだ。
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 白糸の滝

ただ、白糸の滝に近づくには階段を上り下りしなくてはならない。土産物屋が立ち並ぶ一角に車いす用の観覧スペースがあったので、疲れてきた母と父を家内に任せてリルと二人で散策。
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水を通しやすい溶岩石の隙間から富士の地下水が零れ落ちる滝なので、マイクロウェーブのようにその冷たさが優しく体を包んでくれる。
正午を回っているのに、日差しが気にならない。
リルも皆さんに声をかけられ、ナデナデされながらの涼しい場所にとてもご満悦。
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 デレデレするな。

それに、たまたまなのかもしれないが、うるさい外国人もいない。ここの日陰で寝そべっていたら一日いられそうだ。
昼食は土産物屋で蕎麦などを食べる。父もホッとした感じだった。
母も家内もあちこちで買い物をして、訳の分からないものばかりで車は満杯。
ここでもまたソフトクリームだの牛乳、ヨーグルトだのを飲食して、リルはそのおこぼれに預かっていた。
オマエ、ソフトクリームばっかり食べてるとお腹壊すよ。
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 ここ、いいね。

結局、富士の裾野をぐるっと一周して帰宅した。
二日目は満足いく旅行になりましたあ。