来週は秋の船底塗装を予定している。
船底塗装だけなら三日もあれば家内の一日手伝いで作業は終わる。我が家はこれを家族イベントとして位置付けているので息子も勘定にいれている。本当はそれで十分なのだが、いつも誰かしら助っ人として声をかけている。一緒に汗をかいて一杯飲む。
ここのところ毎回来てくれている友人タカハシから昨夜電話があった。
「明日9時半ごろマリーナの最寄り駅には着けるよ」
って、オイオイ船底塗装は来週だぞ。
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 ペンキ屋

どうも勘違いしていたようで、船底塗装が明日だと思っていたらしい。来週はすでに予定が入っているとのこと。
で、どうせ来る予定だったら明日横浜にくればいいよと誘った。

今日は船底塗装の準備として、工具その他の点検と消耗品の買い出しをする予定だったが、まあそんなことはいつでもできる。
我が家と駅近くの呑み屋ぐらいしかタカハシは馴染みがないので、地元門前町の街歩きでもして昼飯を一緒にしようという事になった。

あいにくの小雨交じりで、リルは連れていけない。実家の薬を届ける”帰ってきた”運び屋も今日はリルなしで行ってもらう。しかも週一シャンプーが待っているリルは大いに不満。
オマエもたまにはストレスを感じろ。
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 苦手なのがいるし…

地元駅で11時に待ち合わせ、さっそく古刹の瑞応山へ。
天平時代に行基が開山したと伝えられているが、それを遡る養老年間にインドの高僧、善無畏が結界を張って礎石を置いたことに由来する。
この善無畏なる人物、とてもミステリアスで実在したかどうかも疑わしい。
インドの高貴な出で、唐代玄宗の頃密教に惹かれて国を捨てて帰依したとある。中国に渡り密教の神髄たる三蔵を納めたのち、日本にやってくることになる。阿闍梨につぐ高僧の三蔵法師である。
一度しっかり調べたいと思ってはいるのだけれど、最近は難しい本を読むと眠たくなる。
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古刹ではあるが、鎌倉や京都のように「権威」があったわけではないから実に素朴で、それこそが地元住民によって育まれた寺の証拠でもある。信仰によってのみ長い年月を積み上げてきた瑞応山は今でも親しみもって生活の中に位置づいている。
鎌倉や京都の寺院の多くだって、もともとは小さな寺領だったはず。
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 七五三で賑わう境内

まあ、そんな話をしながら門前の商店街へ。
いつもの散歩コースだけに、私には真新しい感じはない。ここのアーケード商店街は雨降りの時のリル散歩には利用させてもらっている。
アダチ君が来た時も横浜橋商店街をタカハシと三人で歩いたが、そちらとは全く趣が違う。
こちらは半数近くがシャッターを閉めている。
だからと言って、地方都市にあるような寂びれた商店街とは違う。昔から日曜定休なのだ。
私が小さい頃は、当たり前のように日曜は市場(いちば)が休みだった。築地だろうが南部市場だろうが今もってそれは変わらない。つまり、河岸に品物がないから仕入れができないわけだ。
売れ残った物を売るという新鮮味に欠けるような商売は恥ずかしくてできない、というのが暗黙の了解だった。
今でこそ、日曜だから買い物に行くというスタイルが定着してスーパーだろうがコンビニだろうが当然のように物を売っているけれど、冷凍冷蔵技術や産地直売の流通が発達したからそうなっているわけで、その分昭和の町の商店街はすたれた。
ここ門前の商店街は未だにその姿勢を崩さない。周りにスーパーがたくさんできているから本当は経営が苦しいのだろうけど、そんな取り決めをしている昔気質のこの商店街は好きだ。

商店街のベトナム料理の店でタカハシと食事。
相変わらず食べられるものが少ないからフォーや春巻きなのだが、タカハシは美味いと舌鼓。
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 いい味だなあと喜ぶタカハシ。なんで焼酎なのかなあ?

実際この店のフォーは美味しくて、ヴェトナム人の留学生たちが足しげく通う。
商売柄、私もいろんな国の料理を食べてはいるが、「ジャスミン・パレス・キッチン」は特筆に値する。

商店街の店を一つ一つ紹介しながら、今どきないような帽子屋や漬物屋(タカハシは胡瓜の古漬けを買っていた)、鮨屋や染物屋などで足を止め、年金生活者にありがたい常時廉売の衣料品屋でひざ掛けなどを買い駅に戻る。
といっても、まだ13時。
それでも居酒屋チェーン店は開いているのが今のご時世。
酒好きなタカハシをこのまま帰すわけにはいかない。
枝豆や手羽の味噌焼きなどを注文して一杯。(昼を食べたばっかりだし)
で、タカハシから”お詫び”の土産をもらうことになる。
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 タカハシの土産。

茨城の土浦からわざわざ出てきてもらった上に、幻の酒までもらって恐縮。
来年三月で仕事を辞めるタカハシだから、その後は会うのも難しくなる。
3時間ほど一杯のサワー(今はこれしか飲めない)で居座った。しかも、私がトイレに行っている間に会計をしていたタカハシ。なんだよ、ご馳走になっちゃったじゃないか。
「ごめんな、船底塗装に行かれなくて」と悪びれながら逆に頭を下げられた。
律義というか、いいやつだなあオマエ。

駅で別れる。
姿が見えなくなるまで後姿を見送る私に何度も手を振るこの光景、学生時代から変わらんなあ。