D旗たなびく

忘却甚だしく、メモ代わりにちょっと書くだけ。 コメントは受け付けていません。

2017年06月

いよいよ運命の日。
シリンダーヘッドを替えてどうにもならなければ、屋形船として10ヶ月過ごし廃船となるなる瀬戸際。
ここはHさんの技量と感に頼るしかない。情けないことだが自分ではどうしようもない。
忙しいHさんだけに、何時にという約束はしていない。第一、部品を揃えるのだって昨日の今日だから、在庫がメーカーにあるかどうかすらわからない。

リルと早めにマリーナへ行き、デッキの拭き掃除などに精を出す。死に化粧か?
今日は良い風が吹いてるし、夏雲も鮮やかに視界がいい。それほど暑くもない絶好のセーリング日和。
こうなるとなんか恨めしい。
結局Hさんは午前中来られなかった。と言って、いつ来るのかなんて連絡もしない。無理を承知での頼み事だけにここはじっと我慢。せいぜいいつ来ても分かるようにポンツーンをリルと散歩しただけ。
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   ジーッ。
昼は最近お気に入りのBLTパニーニを食べる。
フネがなくなったら、こいつを食べることも少なくなるだろうなあ。

Hさんは1時過ぎに来てくれた。
ご自身もゴールデンレトリバーの愛犬をお持ちなので、すぐリルと仲良しになる。
キャビンに入るとすぐに見せられたのがこれ。
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 昨日までついていたシリンダーヘッド。
真ん中にある二つの給気、排気孔両方に亀裂が入っていた。
「排気の逆噴原因をを調べていたら、見つけました。両方に亀裂が入るのは滅多にないです」
ヘッドを交換するなら、古いものを見ることはしないだろうが、Hさんはそれを探ってくれていたわけだ。
それもこんな重いものをわざわざ見せるために持ってきてくれたのである。本当に頭が下がる。

で、いよいよ新しいシリンダーヘッドの付け替えに入る。
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シリンダー室に十分オイルを塗り、燃料ポンプで軽油をなじませる。プーリーを回しながらオイルや軽油がシリンダー上部から染み出すまで室内にゆっくりと馴染ませていく。これがいい加減だとシリンダー室を痛めてしまうからだという。
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新しいガスケットを入れ、止め金具にもオイルを指で塗っていく。
Hさんは一つ一つの過程をきちんと説明しながらやってくれるのだ。
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新しいヘッドアッセンブリー。なんかかわいいよねえ。

これからが微妙な力作業。
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トルクレンチでシリンダーヘッドを締めあげていく。締め上げ量で気密が決まるのだが、これが結構微妙。
ヤードでやれば計測できるのだが…
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バルブロッカーアームとの隙間調整にこんなものを使う。初めて見た。
なんていうのか知らないけれど、このステン板の厚みを保持しつつ、バルブシステムのナットを締めつけていく。
微妙な厚みなんだな、これが。
ここで、一旦休憩。
コクピットでジュースなどを飲みながら雑談していると、たまたま海王さんもやってきて、三人で談笑。
そんな中でもキャビンのリルはおとなしくしていたので、ササミチップスを進呈。
で、いよいよ最後の組み立て。
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ボンネットカバーを付け、新しいミキシングエルボーをエキゾーストにねじ込み、エアエレメントやドレンも新しくして、あとはアース配線とオルタネーターをつけるだけの状態。
燃料ノズルは問題なかったし、Vベルトも大丈夫。塗装が剥がれたエンジンにカラースプレーまでしてくれた。
「あとはちゃんと動くかですね」とHさんはさらっと言う。
3時すぎに全部整って、運命の始動。
電源を入れ、スターターを押す。頼む!

ブルルーン!
おお!!!、間髪入れずに始動。二人で顔を見合わせてにっこり笑う。
暑さに耐えてよく頑張った。感動した!

排煙無し!排水透明!やったーっ!
って、私は何にもしてないんだけどね。
排水が透明であることに感動するなんてちょっとおかしいんだけど、率直にHさんにその感動を述べると、
笑いながら「よかったですねえ」と、さりげなく返される。格好いいよなあ。
この後、試走。
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リルも満足そうに乗ってる。

30分ほど、スロットルを上げたり下げたりしながら、日が傾き始めた沖合を機走。
やっぱり海はいいねえ。
嬉しくて自バースさえ間違ってしまうほどだった。
帰港後、何度も頭を下げながらHさんに感謝。
リルもいつの間にかなついていた。
JOLLYHOTの復活だ。





ガーン!
Jollyhot存亡の危機。
一昨日、もうもうとした黒煙と墨汁のような冷却排水を噴出させて、とうとうエンジンがかからなくなった。
無理してスタートボタンを何度か押すと、心もとなく始動するのだがすぐに止まってしまう。
最初からスロットルを前進に入れ、何度も挑戦するがニュートラ位置まで戻すと、また止まる。
こりゃ、大事だぞ。

てな訳で、一番手短な吸気と排気を点検するところから始めるのが普通。(というか深刻な事態から目をそらす)
エアエレメントは3月末に交換したばかり。で、今日は排気と排水が混ざり合うミキシングエルボーを点検する。
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ラチェットがあれば猿でも外せるが、エルボーとエキゾースト管がシリコンで補強したらしく、なかなか抜けない。
CRC556などを吹きかけて回しながらやっとの思いで外した。
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うへ、カーボンびっちり。
だが、排気も排水も通らないというほどではない。

エンジン側を鏡で見てみる。
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 煤がひどいが、それほど動脈硬化がある訳じゃない。
指でさらっとふき取ると、ちょっと湿った感じが…ヤバっ!ここに水気があってはならない。
いやーな予感がしてくる。
エルボーをつついて、洗剤で洗っていると、なにか微妙な穴が開いているのに気づく。
試しに冷却水取入れ口にホースをつけ、水を送ってやると…
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げーっ!エンジン側に水が飛び跳ねてるじゃないの!
こうなるとエルボー交換は当たり前だが、シリンダーヘッドの損傷やシリンダー内への錆付も最悪考えられる。
エンジン換装?無理無理。
もとより、貧乏船主は財政上の理由から今年度限りの引退を覚悟している。とても換装などはできない話。
上架してオーバーホールしてもヘッドを交換したら50万円近くかかる。
廃船か… せっかくみんなで船底塗装したばかりなのに。
年度いっぱい動かぬ屋形船か…
取りあえず海王さんに連絡。

さっそくメカニックのHさんと連絡を取ってくれて、午後になってHさんがやってきてくれた。
不動作の症状とエルボーの話をすると、
「それはちょっと厳しいですねえ。エルボーは一因ですけど、黒煙原因はもっと深い所にあります。5年以上、このフネに乗るなら、換装をお勧めします」
Hさんはメカニックの中でも腕はピカ一で、いつも多忙だ。何度もお世話になっている。
技術も信頼度も高いが、なによりその人柄が好きで、訳もなく話掛けたくなる気心が知れた人だ。
「いやあ、この一年もってくれれば…」
「えっ、やめちゃうんですか。もう少し頑張りましょうよ」
そんな風に言ってくれるのだ。
症状チェックの前に、コクピットで我が家の財政状況や家庭事情などを聞いてくださった。
彼の技術からすれば、私の小舟などはさした仕事ではない。
エンジン音痴の私がYBMに来て間もない頃「ディーゼルエンジン講習会」で講師をしていた彼と会ってから3年。
毎年何度も手にとり足を取って教授してくださった。そのお陰でずいぶんと知識を得ることができた。

Hさんは私の話を聞きながら、自分のフネの話などもしてくれる。多忙な方だからなかなか自分のフネに乗ることさえままならないらしい。
「でも、降りたら二度と持てませんからねえ」
修理の話はさておいて、どうしたら陸に上がらないで済むかを示唆してくれるのだ。ありがたいことだ。

「ご事情はよく分かりました。換装なんて言ってすみませんでした。今できる最善の道を考えましょう。オーバーホールで上架したら50万円ほどかかりますから、ここでシリンダーヘッドを交換しましょう。ただシリンダー室の損傷やシリンダー自体にクラックがあったらどうしようもないですから、その時はその時でまた相談しましょう。開けてみないと分かりませんが、シリンダーヘッドの交換なら20万円かからないと思います。だから、JOLLYHOTさんも頑張りましょうよ。」
なんか胸にぐっときた。すみません、貧乏船主で。

で、さっそく修理にかかるという。一旦ヤードに戻って工具類を持ってきた。今日できることは今やるという彼の姿勢は共感すら覚える。
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なによりびっくりしたのは、ヘッドを外すためにエアフィルターを外した時だった。
一番大丈夫だと思っていたエアエレメントがオイルでグチャグチャになっていたのだ。どうやっても給気ができない。Hさんによると逆噴したのだという。
「こんなにひどいのは初めて見ました」と笑っている。
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プーリーを手で回して圧縮と爆発のタイミングを耳で聞いている。
「圧縮時に漏れる音がしますね」
たしかに耳を傾けているとシューという小さい音が漏れる。気密が保たれていないのだ。
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Hさんは私の目の前で、一つ一つ教えてくださる。私もそれを真剣に聞く。こんな授業は受けられるもんじゃない。
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とうとう、シリンダーヘッドを抜いた。
シリンダー室にエルボーから逆流した水滴が蒸気化したものが作ったか、わずかな赤錆があった。
「どうですか?」
「むーん、頑張ってもらいましょう。2,3年はなんとかね」
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冷却水経路についた結晶をそぎ落とす。見た目にはびっしりついてるが、Hさん曰く「まだましですね」
シリンダー裏のカーボンも丁寧に漉き取っていく。早い!
ガスケットも交換予定。私が回せなかった塩で固着したドレインも抜き取り、これも交換予定。
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明日計測して問題があればノズルチップも交換する。
勿論、エルボーもエアエレメントもだ。
今日はここまで。明日、シリンダーヘッドやガスケットを据え付け圧縮比を計測して締め付けるからこのままにしておいてくれと言う。
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作業中に入った電話で、一息つく間もなくHさんはイーストまでビルジポンプの動作異常を直しに行った。
その後ろ姿に私は何度も頭を下げた。

明日は午後にでも組み立てが終わって試運転ができるという。
また全部作業工程を見るつもりだ。





昨夜のボランティア、生徒さんはフルメンバー。未だ誰を中心に授業展開すべきか、全くわからん。
当然七転八倒の大汗もの。授業開始の20分前から質問の嵐。終わってからも30分は個別質問責め。
いつも自分でへたくそだなと思いながら、それでも来てくれる生徒さんたちは感謝。
せめて期待以上の授業をしなとなあ。

朝から降っていた雨に、「今日はゆっくり休め」と言われてるようで、リルとゴロゴロしていたが、どうも調子がよろしくない。重怠い感じが続いているので雨が上がるや否や整骨院に駆け込む。
若い施術者だと的を外すから、痛くも気持ちよくもない。それでも、行かないよりは多少ましかも。

陽が出て来てからリルと散歩に行く。
なんか蒸し暑くてダラダラ。気温は26℃くらいなんだけどねえ。
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      グータラしてるんだよ。

動かにゃ景色も変わらない。
暑い昼下がりをやり過ごして、マリーナへ。
着いたのが午後の3時半だから、夕涼みがてら機走してみる。潮風は気持ちいいしね。
昨夜から降った雨でセイルカバーに水が溜まっていたので、それが揺れる度に落ちてくる。
いつの間にか雨が降ってるような状態に、リルは逃げ惑っていた。

陽が傾き始めた頃、本船航路に白く美しいバーク型帆船を発見。
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ひときわ白く美しい。
4本マストの白のバーク型と言えば、練習船日本丸か海王丸しか浮かばない。
もう少し近づいてみよう。
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展帆こそしてないけれど、やはり日本丸。
白鳥とたたえられた先代日本丸は横浜のMM21に据え置かれたままだが、こちらもどうして本当に美しい。

フルスロットルで追いかけていたら、日本丸は本船航路を抜けてどんどん根岸湾に向かってくる。
ドッグ入りか?
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練習船だけに、わんさか練習生が乗っている。
キャプスタンに群がったと思ったら、湾口で錨を下ろした。
タグボート待ちかな?

夕映えに白い船体が輝いて、実に美しかった。
やっぱり、まずは行動しないとな。

ちょっとだけ動画。






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